「腎臓病 一生透析なしで過ごす本」(椎貝達夫著 青春出版社刊)より
1.新しい常識:慢性腎臓病には「進行するタイプ」と「進行しないタイプ」があった
日本の慢性腎臓病患者が1330万人だとされています。ただしこの集計調査が行われたのは2012年であり、もう20年も前のことになります。おそらく、今では、600万人くらい増えているかもしれません。
実は、この1330万人のうちのおよそ1000万人は「進行しないタイプ」なのです。この「進行しないタイプ」の患者さんはなにもせずに放っておいてもほとんど病状に変化がないのです。これは、著者が5年間にわたって続けてきた「長期観察研究」によって導き出した結論です。
下の図は、尿たんぱくが0.3g/㎗/日未満の人87名を対象に5年にわたり病状の変化を追跡調査したもので、ほとんどの人のeGFRが横ばいになっていますよね。
2.「慢性腎臓病の原因は不摂生」は間違い
腎臓病の原因は、食事や生活の不摂生とはほとんど関係ありません。
残念ながら、慢性腎臓病が起こる原因はいまだに不明なのです。若くて健康なスポーツマンもなりますし、日々健康的な食事と生活を続けてきた人でもなります。
3.「たんぱく質制限」を頑張りすぎると逆にリスクが高まる
まず、「進行しないタイプ」の人は、たんぱく質制限をする必要はありません。
一方、「進行するタイプ」の人は、ある程度たんぱく質制限をする必要があります。1日のたんぱく質摂取を「標準体重㎏当たり0.8ℊ未満」に制限することを勧めています。体重60㎏の人であれば、48ℊですね。
逆に「タンパク質制限のやりすぎで高まるリスク」とは、体の筋肉量が落ちてしまうリスクです。たんぱく質は人間にとって欠かせない栄養素ですよね。この重要な栄養素が不足すると人の体は筋肉内のたんぱく質を分解して不足分を補おうとするしくみになっています。このように日常生活に困るほどの筋肉減少は「サルコペニア」と呼ばれ、このまま放っておくと「寝たきり」になってしまいます。
4.「腎臓のため、漬物やみそ汁はいっさいとらない」はやめたほうがいい
塩分制限についてです。
慢性腎臓病患者さんに対し、著者のクリニックでは、1日の塩分摂取は、「7g未満」にすることを推奨しています。7g未満は、腎臓病の進行を抑えるというエビデンスがあるので、「進行するタイプ」の人はこのレベルの制限がぜひ必要です。ただし、「進行しないタイプ」の人にもなるべく守るようアドバイスしています。
慢性腎臓病患者さんには、「塩分濃度計」を購入して、日々つくる料理の塩分濃度をチェックしながら薄味に慣れていく方法をすすめています。
5.カリウム制限は一部の人だけに必要なもの
「慢性腎臓病の人はカリウムの摂取も控えたほうがいい」とよく耳にします。
しかし、慢性腎臓病の人のすべてにカリウム制限が必要なわけではありません。血清カリウムがいつも4.5mEq(メック)/ℓ以下の人は、果物の摂取に注意したり、野菜をゆでこぼしで摂ったりする必要はないのです。
6.アルコールも「控えめに飲む」のなら問題なし
少しくらいアルコールを飲んだからといって慢性腎臓病が悪化することはありません。著者は、お酒を飲める患者さんには、夕食時などに適量を飲んでもかまわないと指導しています。
一般の人の場合、お酒の適量は純アルコールに換算して「1日20ℊ未満」とされています。慢性腎臓病の人は、この一般の人向けの適量基準よりもうちょっと控えるくらい(1日10~15g程度)がちょうどいいと思います。純アルコール20ℊ未満とは、ビールであれば540㎖の缶ビール1本なので、慢性腎臓病の人であれば、350㎖の缶ビール1本くらいでしょうか。
7.慢性腎臓病の人も運動をしたほうがいい
たとえば、ジョギング、水泳、アクアビスク、サイクリング、ゴルフやハイキングをするのもOKです。マイペースで手軽にできる運動といえば、やはりウォーキングですね。
ウォーキングには腎臓の機能を保つ効果があることも報告されています。著者も末期段階まで進行していない慢性腎臓病の患者さんには、よく歩くことをおすすめしています。著者がすすめているのは、1日最低30分「歩くために歩く」というスタイルです。歩くスピードは、自分に合ったペースでかまいません。体調が悪い日やお天気の悪い日、暑さや寒さが厳しい日は休んでもかまいません。ぜひ、あまり無理をせずマイペースで細く長く、続けていくようにしてください。
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