慢性腎臓病でも透析なしで過ごす法

「腎臓病 一生透析なしで過ごす本」(椎貝達夫著 青春出版社刊)より

1.腎臓の働き

まず、腎臓はいったいどんな働きをしているのでしょうか。腎臓は、実は「おしっこをつくるだけ」の臓器ではないのです。

腎臓の真の役割とは「血液を管理する」ことです。

みなさんご存じのように、血液中には人間が生きてくために必要なさまざまな成分が含まれています。糖、ナトリウム、カリウム、カルシウム、リン…これらは、常に一定範囲の正しい濃度に保たれていなくてはなりません。また、血液中にはタンパク質が分解されたときに生じる尿素などの毒素(尿毒素)も含まれるため、これがたまることのないよう、速やかに排泄していかなくてはなりません。

すなわち腎臓は、血液をろ過して尿をつくる過程で、こういったさまざまな血液成分の濃度を管理して調節する働きを担っているのです。

もう一度腎臓の働きを整理すると次のようになります。

  • 血液のろ過・老廃物の排泄
  • ナトリウム、カリウム、リンなど「血液中に溶けている物質」の量と濃度の調節
  • ホルモン(エリスロポエチンなど)の分泌

2.腎臓の機能

実際どのように血液を管理しているのでしょうか。

腎臓には多くの血液が集中していて、心臓が送り出す血液のおよそ4分の1が腎臓に流れ込んでいるとされています。

成美堂出版刊ぜんぶわかる人体解剖図より

腎臓に流れ込んだ血液は、まず、「糸球体」でろ過されます。糸球体は、毛玉のような形をした毛細血管のかたまりで、ひとつの腎臓には、糸球体が100万個あります。糸球体では、血液をろ過した「原尿」と呼ばれる尿の素がつくられます。この尿の素には、クレアチニンなどの老廃物とともに、糖、ナトリウム、カリウム、カルシウム、リンなど体に必要な成分も含まれています。1日に180ℓほどもつくられます。このままでは、必要な成分も体から逃げてしまいますが、これを防ぐために「再吸収」のプロセスが、次に控えています。糸球体でろ過された原尿は「尿細管」に進みますが、ここで、原尿から必要な分だけ再吸収され、血液に戻ってくるシステムになっています。つまり、血液の成分の管理・調整がこの再吸収の時点で行われているのです。

なお、このときに水分も99%が再吸収されていき、尿細管を通過し終えたときに残るのはおよそ2ℓほどで、これが膀胱を経由して「尿」として排泄されていくわけです。

3.腎臓は人体情報ネットワークの中心

腎臓は、体内の酸素不足を監視する見張り番のような役目も果たしていて、酸素の量が減ってくると「酸素がもっと欲しいから、赤血球をもっと造って」というメッセージを骨髄に発するようになっています。このメッセージを伝えているのは「エリスロポエチン」という物質です。骨髄では、腎臓から血液を通してエリスロポエチンのメッセージが届くと、赤血球の増産に入ります。これにより、体内に十分な量の酸素が行き渡るようになるしくみになっているわけです。

このように血液の管理人、腎臓は、骨髄の他にも体のさまざまな臓器とネットワークを構成して、おおくの情報をやり取りしています。各臓器と「対話」をしながら、血液を適切な状態にキープしているのです。

4.慢性腎臓病は、血液の管理能力が低下してしまう病気

腎臓のこのすばらしい管理能力がじりじりと落ちてきたらどうなると思いますか?

管理能力が低下すれば、ごみと必要なものをうまく仕分けできなくなったり、血液の成分をうまくコントロールできなくなったりしたら、さまざまな支障が生じる可能性が出てきますよね。

つまり、そういった管理能力の低下を招くのが「慢性腎臓病(CKD)」なのです。

慢性腎臓病は「進行するタイプ」と「進行しないタイプ」があります。(後述)

慢性腎臓病(CKD)を代表する病気として、糖尿病性腎臓病(進行する)、腎硬化症(進行しない)、慢性糸球体腎炎(進行する)、多発性のう胞腎(進行する)があります。

腎臓にどのくらいろ過能力が残っているかは、eGFR(推算糸球体ろ過量)という数値で表わされます。この値が低ければ低いほど、腎機能が弱っていると考えていいでしょう。

通常、eGFRが60未満になると、慢性腎臓病と診断されます。「進行しないタイプ」であれば、数値はほぼ横ばいになるのですが、「進行するタイプ」では、40台、30台とじわじわと少しずつ数値が低下していきます。そして、どの医療機関においてもeGFRが15を下回ると透析の準備に入ります。これは世界中の医師向けのガイドラインで決まっていることなので、一般のクリニックで15以下と確認されるとそういう風に言われるはずです。

5.保存療法なら、血液管理能力を低下させずに済む

保存療法は、慢性腎臓病の患者さんができるだけ透析にならないように、日々の食事や生活習慣に注意を傾けつつ、腎臓の機能を長持ちさせていく治療法です。

腎臓の血液管理能力をこれ以上落とさないようにするためには、「塩分摂取」「タンパク質摂取」「血圧のコントロール」など、食事や生活習慣で注意を払っていくべきポイントがいくつかあります。

当クリニックの椎名方式保存療法のひとつの特徴は「24時間蓄尿」を行う点です。これは1か月か2か月に一度、24時間の尿を「尿パック」に貯めて、そのうちの30㎖ほどを試験管に入れて持ってきてもらい、それを分析したデータを元に診療を行うものです。この方法だと患者さんの食事内容や腎臓の状態が一度に詳しく読み取れるのです。この尿の情報データを分かりやすくまとめ、「腎臓病ノート」に記入します。それを患者さんと見ながら、今後に向けての改善点や注意点などを話して診療を進めていくのです。

他の医療機関で「いますぐ透析」のように言われていた人が当クリニックに来て、10年近くにわたって透析を受けずに済んでいるようなケースもたくさんあります。おそらく、保存療法で食事や生活の管理能力を高めたことが、腎臓の管理能力の低下を埋め合わせる格好になっているのでしょう。日々食事や生活を管理して腎臓にかかる負担を軽くしたことが血液管理能力低下を抑え、腎機能を長持ちさせることにつながっているのです。

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